実物の人間よりも、極端に細長くデフォルメされた人物。
一見、人の姿形にはかけ離れているように見えます。
しかし、ジャコメッティは人間を見たままに形づくり、本質を捉えた表現を目指していました。
スイス出身の彫刻作家、アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)の展覧会が、エスパス ルイヴィトン大阪で始まりました。
展示作品は全7点と小規模なものの、彫刻ひとつひとつの存在感が強く、とても満足感のある展覧会でした。
ジャコメッティの彫刻作品といえば、針金のように細く長く引き伸ばされた人物表現が特長です。
第二次世界大戦前はシュルレアリスムの彫刻家とされていましたが、大戦後からは具像主義に回帰し、見えるものを見える通りにかたちづくり、描かれたものの本質に迫ることを追求しました。その結果、今日の私たちがよく知るような、極端に細く長く引き伸ばされた人間像が生み出されるようになりました。
ジャコメッティが表現する人物は、人物の背景にある物語やアイデンティティまでも全て削ぎ落とし、人間として必要最低限の要素を残した最終形態とも言えるでしょう。
20歳でスイスからパリに出たジャコメッティ。ルーヴル美術館で見た古代エジプトやエトルリア美術、民俗学博物館で出会ったアフリカやオセアニア彫刻の造形からも影響を受けていたようです。
《大きな女性立像Ⅱ》1960年は、ジャコメッティが製作した彫刻作品の中で最も大きなサイズの彫刻です。
自分の身長より高いジャコメッティの作品は初めて見たため、下から作品を見上げるのが新鮮でした。
台座が前傾しているため、より彫像が上に向かうような印象も相まって、下から見上げると圧巻です。
削ぎ落とされたシルエットに対して、足部分はどっしりと肥大化されており、まるで地に静かに根を張っているかのようです。
対照的に動的な印象があるのは、《3人の歩く男たち》1948年
この作品では、1つの都市空間で、3人の人物がお互いを認識することなく、それぞれの方向へ向かう様が捉えられています。これは、戦後復興期のパリに戻ってきた喧騒の中で交錯し合う、孤独が表現されているようです。
この孤独の表現については、現代にも通じていてリアリティを感じました。
都市部の交差点で、名前も背景も知らない人々がすれ違い、関わることなくまた別の方向へ散っていく映像が頭に浮かびます。
ジャコメッティの鋭い感性で、人間の本質を捉えた7点の彫刻。
人間らしい姿形とは何か、何を残せば人間らしく見えるのか、を考えさせられる、ジャコメッティの世界観に惹き込まれる展示でした!
展覧会基本情報
展覧会名:アルベルト・ジャコメッティ
場所:エスパス ルイ・ヴィトン大阪 (ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋5F)
会期:2023/2/23-6/25
休館日:ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋に準じます
開館時間:12:00-20:00
所要時間:20分程度
観覧料:入場無料
公式HP:https://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/magazine/articles/alberto-giacometti-espace-louis-vuitton-osaka (掲載終了)